アフリカにおけるバッタによる災害

(2011/9)

講師紹介:八木繁実
多摩アフリカセンター代表

 八木ですよろしくお願いいたします。今回KI-AFRIKAさんとのメール連絡のとき、以前知り合ったきっかけのアフリカンポップスの話ではないのですかと言われましたが、やはり私の専門である応用昆虫学のバッタのお話をします。時間がありましたら我々夫婦でやっている「多摩アフリカセンター」というNGOの話と音楽も少し聞いていただきたいと思っています。ムビリア・ベルは素晴らしい女性歌手で同じ歌をスワヒリ語とリンガラ語で歌っています。

 バッタは何千種類もいますが、世界のあちこちで大発生して移動するバッタが何十種類かいます。アフリカでは砂漠渡りバッタ、デザートロカスと呼ばれているものがいます。サヘルの南から北側に多いのですが、1985年から86年にかけてエチオピアで大発生し緑を食べつくしてしまいました。2003年から2005年にかけても大発生しましたがそのときは中近東を経てインドまで行っています。渡りバッタは有史以前から発生していたようで旧約聖書やコーランの記述にもあります。バッタは世代を越えて移動してゆくわけで、親が卵を産んで次の世代が移動しこれが繰り返されるわけです。このバッタは少数の時には緑色をしていますが、数が集まると集合フェロモンというにおい物質を体の表面と糞に出して体が茶色になりどんどん集まってきます。

 1986年から87年にかけて長距離移動した有名な話なのですが、アフリカ大陸からカリブ海の島々まで1週間かけて4000キロ以上飛んでゆきました。昆虫学者の一部も信じなかったことですが、これは飛翔力が強いわけではなく風に乗って飛んだわけです。この時の気象図を見ますと丁度良い風に乗って飛んで行ったということがわかります。4600キロを1週間で飛んでカリブ海まで飛んだことはこれまでなかったので大変話題になりました。

 昔は虫という字は蟲と書きました。昆虫は熱帯、亜熱帯に非常に多く被害も多いわけで農作物を作っても食べられてしまいます。人間から見ると益虫も多く、バッタも食べるところがあり益虫ともいえるわけです。害虫、益虫というのは人間が勝手に決めているだけで、昆虫は環境の中で非常に重要な役割を占めています。私が行っていたのはケニアにある国際昆虫生理生態学センターという所で、1970年に昆虫を対象にした国際研究機関として出来ましたが資金の面で厳しい状況にあります。

 これはツエツエバエで20何種類かいますが、眠り病や家畜の病気を媒介します。私は延べ6年間くらいこの研究室にいましたが、停電や断水が多くて苦労しました。自家発電装置はありますが容量が小さいので僅かの所しか使えませんでした。しかしバッタに関しては世界でも最高水準の仕事がここ15年から20年くらいの間に行なわれてきました。1994年にはナイロビにいましたがバッタの調査に出かけました。研究はしていますがケニアでバッタの大発生ということはありません。大発生は大体ケニアとエチオピアの間で起こりますのでエチオピアからチャドのジャメナを経てニジェールへ行って最後にカメルーンのヤウンデに行くという計画でしたが、この時私はチャドでマラリアに罹りまして緑のサヘルでお世話になってしまいました。

一緒に行った方が京大のゴリラを研究している山極寿一さんとチャドのドクターでした。ジャメナという所は行った方は少ないと思いますが、ツリーロカスという木の葉を食べるバッタが多く発生しています。半砂漠の地域でマーケットへ行くと何種類かのバッタをおばさんが売っていました。夜火を焚いて集まってくるバッタを捕まえて、それを軽くゆでたものをマーケットで売っていて私もよく食べました。ギザギザのある足を取れば結構おいしいです。

日本では明治13年に北海道で三百数十億匹という大発生がありました。この時は軍隊が大砲を撃ったそうです。イナゴも新聞などに出てきますが、バッタとどう違うかは新聞でもかなり混乱していてロカスというのをバッタ、グラスホッパーというのをイナゴと訳しているようですが、これは間違っています。その後日本では発生していませんが、30年前に沖縄で一度大発生しています。バッタが大発生して島全体がおおわれるようになると病気が発生して死滅するということが起こり自然淘汰されます。どういう病気かというとカビによる病気で、これに感染するとそのバッタはイネ科の植物の上の方へ登って行って死にますが、その死体からカビの胞子が拡散し、これがまたカビが広く増えるようにとカビのやっていることなのです。バッタは卵から生まれて約1か月で成虫になり2~3か月生きます。バッタの発生する仕組みは複雑なのですが、大体雨が降って湿度が上がると土の中にある卵が刺激されて生まれ、同時に草も生えるということになります。その草を食べてまた卵を産みどんどん増える、そして風に乗って飛んでゆきます。

 バッタは成虫のままや地中の卵などいろんな形態で休眠していますが、卵の場合は卵穴という小さな穴が開いていてここから雨などの水分が入ることによって刺激され羽化します。バッタは荒れ地を好んで産卵しますが関西国際空港を造るための埋め立て地で大発生しました。荒地には花粉科植物である雑草が生えこれをバッタが食べて増える、そのバッタを食べるために小鳥が飛んでくるということで空港にとっては困ったことになるわけです。簡単にはクローバーなど花粉を出さない植物、バッタの嫌いな植物を植えれば発生を抑えることが出来ます。

 バッタの場合相変異と言って同じ卵から生まれたバッタでも群の密度が高いと色が黒くなり行動も活発になりますが、密度が低いと動きも遅くなります。これを相変異と言って群生相、孤独相と言います。群生相のバッタは羽が長く長距離を飛ぶのに適した体型をしています。人工的にまとめて密度を高く飼育しても同じ結果が現れます。これは昆虫の出すフェロモンによって起こるもので、ご存知のようにフェロモンとは昆虫が個体間で情報を交信するために体内から放出する化学物質です。分かりやすいのは性フェロモン、セックスフェロモンでメスがオスを呼び寄せるために出します。蛾の類はほとんどこれを出します。フェロモンの研究はかなり進んでいて性フェロモンが昆虫の防除に実用化されています。

バッタのフェロモンは何種類もあって、その比率によって行動が規制されています。今ではフェロモンを人工的に合成できるようになっています。バッタのメスを切って性フェロモンを抽出して分析し、その結果何百種類ものフェロモンが発見されています。ある種のフェロモンを塗ったものを畑に置いておき、そこに集まってくるオスによってその地域にどのくらいの数の雄がいるかがわかります。集まってきたオスを取ってしまえばメスは交尾できないわけですが、これは駄目で少しくらいオスが減ったところでバッタの発生を止める事は出来ませんでした。

もう一つの方法はお茶の栽培で実用化されていますが、細いチューブから性フェロモンを少しずつ出し続けるとオスが錯乱状態になってメスがいても交尾できなくなってしまうのです。これは日本でもよく使われていて果樹栽培などにも使われています。他にもミバエの縄張りフェロモン、アブラムシの警報フェロモンというのもあります。アリの行列でよく知られている道しるべフェロモンというのもあります。このように昆虫のフェロモンは研究が進んでいて応用的にもかなり使われています。バッタの場合の集合フェロモンは非常に複雑で、バッタが卵からかえって羽化した段階で後のものたちが追いつくために未成熟の成虫の成長を抑制しています。逆に成熟した成虫は未成熟の個体に対して早く成熟するようにというフェロモンを出して、一斉に脱皮できるようにコントロールしているのです。

 バッタの駆除には殺虫剤、カビ、ガソリンなどを使い実験されてきましたが、カビは湿度がないと増殖しませんので半砂漠地帯ではすぐに死んでしまいますが、これをどうするかは昆虫学者ではなく植物学者のアイディアで実現できました。カビの胞子を水ではなく油に溶かしたらどうかと考えたのです。やってみるととても良い結果が出ました。油の粒についたカビの胞子をバッタに塗るとそれがバッタの体内に入って病気を引き起こすということがわかりました。

 自然界にあるバッタの集合フェロモンは主に6つありますが、人工的にその一種類PAN(集合フェロモンの主成分)を作ってバッタの幼虫に塗ったところ幼虫の行動を抑えて分散させ群れが小さくなってその結果共食いが起こりました。これをうまく利用して、殺虫剤とフェロモンとカビを組み合わせて防除しようと今研究されています。2006年にスーダンで幼虫がたくさんいる450hrの範囲で実験が行われ、その結果1/4に減らすことができました。PANを使うことでバッタの食欲は1/2に減りカニバリズム(共食い)が増えてバッタの防除に効果的だということがわかってきました。集合フェロモンを分析してどういう種類があるかというのはまさに基礎化学です。自然界ではすべての種類が上手く作用しているのですが、その中の一種類を人工的に使うと思わぬことが起こって別の行動をコントロールするということがわかってきたのです。これは非常に面白い研究だと思い今日ここでお話ししました。

 多摩アフリカセンターは妻八木宏子と二人で2004年に設立し、アフリカに関連した文化芸術および科学技術の振興を目的とするNGOで、毎年アフリカのミュージシャンを呼んでコンサートを開きアフリカを支援するということをやっています。今ウガンダのアチョリ人は内戦の影響で国内避難民になっており厳しい生活を強いられています。その中で生まれた再生紙で作ったクラフトビーズのアクセサリーなども販売しています。