ケニア、ニヤンザ州の村、エイズに取組住民組織

(2010/1)

講師紹介:中村麻友
一橋大学大学院社会学研究科修士課程
2019年ケニアのニヤンザ州の村でエイズに取り組む住民組織の調査を行う

 一橋大学の中村です。今論文を書いていまして昨日までやっていましたが、今回9月にそのための調査に行った時のお話をしたいと思います。

 今日は住民組織によるHIV問題に対する取り組みについてニヤンザ州の場合をお話します。私はアフリカの地域研究をする中で特にエイズによる差別や貧困の社会背景を調べて論文に書きました。始めてケニアへ行ったのは2007年で、子どもの教育を支援するボランティアに参加し、初めは子どもの教育に関心があったのですが実際に行ってみると村ではエイズ問題が大きく、エイズ孤児の問題、エイズ家族が差別をされている問題を知り関心を持つようになりました。

 今回の発表は、住民の取り組みと村の取り組みを始めにお話したいと思います。ケニアは面積が日本の二倍くらいの国で北にソマリア、エチオピア、西にウガンダ、南にタンザニアがあります。ニヤンザ州はビクトリア湖に面しています。ニヤンザ州に住んでいる人たちは殆どルオー族です。キクユ族がケニアには一番多くて20%くらいですがルオー族は2番目に多い民族です。公用語は英語とスワヒリ語です。主要産業は農業で総生産の25%を占めています。トウモロコシ、コーヒー、サトウキビなどを生産しています。次に盛んなのは製造業、観光業になります。

 ケニアのHIVエイズ問題ですが、全世界HIV感染者3340万人の内2140万人がアフリカに住んでいます。その中でもケニアは感染率が高くケニア全体で7.1%になります。ケニアで初めてHIVエイズが見つかったのは1984年で、その時のモエ大統領が独裁的大統領はエイズに対して否定的で最初にあまり対策をとらなかったために広がってしまいました。やっと1990年代になってから国際社会やNGOの圧力もあってエイズ問題に対する取り組みも活発になってきました。西隣のウガンダは1982年にHIVエイズの問題が起きたときすぐに大統領が政策を取ったのであまり広がらなかったようです。

 ニヤンザ州はケニアの中で一番感染率が高く14.9%で、これは国境が近く人の出入りが激しいことに起因しています。ビクトリア湖の周辺は漁村のコミュニティーが多く魚を売って生計を立てていますが、獲るのは男性で売るのは女性の役割ということで、その時に売春が行われることもあります。またこの地域は一夫多妻で一人の男性から何人もの女性が感染することもあります。あと文化的な背景としては、夫が亡くなった場合その奥さんは夫の家族に引き取られることになっておりその時に行われる性的な儀式関わりがあるようです。感染率が高い背景にはこのような事情もあります。

 社会的な事情をあげると先ず貧困だと思います。エイズが打撃を与えるのは働き盛りの人に感染率が高いので労働力が減り経済成長を妨げているということです。あとは18歳以下のエイズ孤児の増加問題です。孤児の70%がエイズ孤児という地域もあります。孤児たちはおばあさんが引き取るという習慣がありますが、孤児の数が増えていて一人で3~4人の孤児を抱えているおばあさんもいます。

 ARVというエイズの発症を抑える薬がありますが、こういうものは都市部主体でアクセスできる人が限られており農村部では殆ど手にいりません。また社会的にスティグマ意識が強く差別されやすいため、物を売っていても買ってもらえないという状況があります。ルオー民族ではチラといって治らない病気は、悪い人たちが呪われているために罹る病気とされており、アフリカ社会にある親族間で助け合うセイフティーネット、相互扶助だけでは対応できないものになってきています。そこで新たな社会関係は今までのような親族関係を超え同じ問題を抱えた人同士で組織化していこうというものです。

 これについてフィールドワーク調査をしました。コミュニティーベイスの組織としてはNGOが中心のものとプルワー中心のサポートグループがありました。女性グループはエイズ孤児を育てているおばあさんや夫を早く亡くした女性で占められていました。同じ問題を抱えているということからプルワーの人たちしか入れません。NGOがクリニックを開いていますがその中の一つのグループ、あるいは地域のヘルスセンターの中から組織化されたものもあります。CBOは1996年から活動していますがこういったサポートグループの活動はHIVエイズ問題が顕著になった2000年くらいからです。

 農村部では情報は主にラジオから得ていますが、エイズ問題も正しい知識を得るというより恐怖をあおる結果になっています。地域によってはエイズという言葉を発しただけで人が離れていってしまいます。地域組織が主に活動しているのはやはり貧困問題を解決することで、例えばグループで作物を作りトマトやスクマウィキを売って収入を得る、あるいはグループローンを組織して必要な人に貸すということもやっています。あとはマーケットなどでエイズの正しい知識を伝えるためにドラマ化して見せるということもやっています。ドラマでは母子感染も正しい治療をすれば防ぐことが出来るし、家族構成については子どもの数を少なくすることで家計に余裕が出来るということを奨励し、またプルワーの人の介護もやっているということを伝えています。

自助活動の一環として、メンバーが余った食料を持ち寄って必要な人に配るということもしています。プルワーだけのグループやプルワーと感染していない人たちが一つになって活動しているグループも出来てきています。エイズ孤児を育てるための40~70歳のおばあさん100人くらいのグループもあります。この組織はオバマさんが、出身地と言うこともあり資金を援助しているそうです。

こういった組織に入ることで実際にどういう変化が現れたかに注目してみると、経済的側面と社会的側面から見て、物へのアクセスが得られたということです。月2000ケニアシリングの収入では全然足りませんのでグループの貯蓄で子どもの教育費を得られるようになり、また薬もコミュニティーヘルスワーカーが無料で配っていますのでそういうものを利用することも出来るようになりました。エイズの薬を買うとすれば5000ケニアシリング位します。食料も野菜を作るだけではなくニワトリの卵をプルワーに配るなどの活動をしています。社会的側面では同じ状況の人たちが集まることによってお互いに心理的なサポートになっています。

HIVエイズ問題に取り組むことをきっかけに、こういった組織が力を付けていろいろな問題を解決できるようになりました。グループ自体は小さいのですが地域全体を巻き込むことで大きな力になってきています。最近では行政組織も一緒になって動かせるようになっています。今回の調査は大体以上のようなもので住民も自主的に動き出しているということを感じました。