ケニアでの母乳育児推進活動~赤ちゃんを栄養不良から守る~

(2011/10)

講師紹介:佐伯亨
特別非営利活動法人HANDS (Health and Development Service)プログラム・オフィサー

http://www.hands.or.jp/

私どものケニアプロジェクトについて説明させていただきます。 私どもの団体は Health and Development Service の略称でHANDS という名前で活動しています。日本で治すことができる病気や飢餓でも途上国では命を落とす可能性があるということで清潔な水がなかったり、安全なお産ができなかったり、栄養が足りないといったことがよく見られます。また病院や医師が身近な存在ではないので、すぐに対処することもできません。こういう問題を解決することを目的にHANDSは活動しています。

どこの国でも医師、看護師といった医療にかかわる人々がいますが、そういう人たちに研修を行ってその国の仕組みを改善強化することを通じて人々の健康を改善することを目指しております。一つには保健施設の開発と実践、住民が地域の保健医療サービスを受けることができるように、その地域の人々自身が活動の体制を作り上げるということです。もう一つは専門人材の育成で、その国の人々の技術を向上させることで、また日本を含めた行政に国際保健協力の必要性を伝えることです。

HANDSは2000年から活動しており昨年10周年を迎えました。今年9月現在の海外活動実施区域は、アフリカではケニアの外、エジプトの小中学校で保険活動の強化、スーダンでは助産師の育成を行っています。フィリピンでは産前産後ケアの充実、大洋州では地域介護士の教育を行っています。中南米では若者の教育とアマゾンの保健医療を受けにくい地域での予防医療に関して活動しています。母子保健、学校保健の分野を中心にプロジェクトを実施しています。日本国内では、東日本大震災を受けましてユニセフとの協力を得て子供の心のケアを中心に支援を続けています。

ケニアで活動していますケリチョー県は、ナイロビから西に250㎞、車で5時間くらいの所に位置しています。15歳以下の若者の占める率が40%で高齢者が非常に少ない地域になっています。因みにWHOが出している2011年度の統計で日本の15歳以下の占める率は13%、60歳以上の人口が30%ということです。ケリチョー県は高地にあり涼しく長袖を着ていることが多いです。県保健局のスタッフにはスーツ、ネクタイ姿で、このプロジェクトのカウンターパートとして責任を持ってもらっています。この地域にはレストラン、スーパーなどもあり野菜や食料品に困ることはありません。町の中心部は停電、断水などもありますが、電気、水道は完備されています。集合住宅も点在していて、物価が高いと言われていますが、家賃は1か月25000程度です。

村は高地にあってお茶の栽培で有名ですが、サトウキビやメイズ畑があり、人々は農作業をすることで賃金収入を得ています。また農作物は自給のためにも消費しますが直接売って現金収入にもしています。村の人々は診療所に来るときやプロジェクトで開いている母乳育児関連の講習会にグループで参加するときなどは、お揃いの民族衣装で着飾って来てくれます。村での食事はトウモロコシの粉を練り上げたウガリを主食に副食は野菜中心で、卵などはマーケットに出してしまうことが多いようです。ケリチョー県で問題なのは栄養に関する知識がないため偏った食事をしていることと、仕事がないとお酒を飲むことが多くアルコール依存症の人が増えていることです。住まいはタウンのような集合住宅はなく、土壁と藁屋根の家に住んでいます。村は幹線道路から小さな道に入っていきますが、曜日を決めてマーケットが開かれています。

保健医療施設は藁屋根の平屋で、住民はここへ病気の診療や予防接種を受けに来ます。我々のプロジェクトでは2005年から2008年まで主に妊婦向けの活動をしていましたが、出産後のケアもしなければ母子保健の改善にはならないのではないかということで、2009年からは産後の母親と新生児を対象にした活動を検討しました。乳幼児の20人に一人が亡くなっていて感染症による死亡も見られます。共通する問題として栄養不良があるということも分かり、完全母乳育児を推進することで乳幼児の栄養改善をすることにしました。

完全母乳育児とは、乳幼児に対して水や粉ミルクを一切与えないということです。母乳は完全栄養であるという考えが根底にあり、WHOやユニセフがこれを推奨しているという背景もあります。粉ミルクを与える場合清潔な容器と水が必要になりますが、母乳の場合はこの点だけでも清潔だということが言えますし、経済的にも負担になりません。マラリアその他の予防接種をした場合よりも母乳哺育をした方が乳幼児の死亡率が低いという統計もあります。

このプロジェクトを始める前はどうだったかというと、ケリチョー県の調査では出産直後は100%母乳を飲ませていましたが、完全母乳哺育ではなく粉ミルクなども与えており6か月後には母乳育児率は5.1%に減っていました。その原因は一般的に他の食べ物を与えないと赤ちゃんが育たないという間違った考えによるものでした。また子供を祖父母に預けて働きに出てしまうことにもよります。そこでHANDSは2009年から母乳育児に焦点を当てたプロジェクトを開始しました。5か所の保健医療施設を中心に周辺の人々を対象にしています。2005年から2008年は妊産婦ケアサービスを中心にした活動をし、2009年から2012年までを母乳育児に焦点を当てた保健サービス向上のプロジェクトで、妊娠時から産後までをカバーする活動を考えています。

世界保健機構21世紀国際社会の目標としてMDG5が妊産婦対象の保健医療、MDG4が幼児死亡率を下げるということを掲げていますので、この活動はその目標に合ったものだと思っています。HANDSでは保健医療に携わる人たちに働きかけ地域住民を指導するとともに、行政である県保健局へ働きかけることにも重点を置いています。2009年には保健施設への機材の供与、人材の育成を行いました。二年目からは育成した人たちと一緒に協力しながら地域の人々に対して完全母乳育児の大切さを伝えていくという活動をしています。供与した機材は、乳幼児の身長を測る器具や育児ベッドですが、このような基本的な機材も不足していましたので、ケリチョー県の5つの保健施設に供与して乳幼児を検診できる体制を作りました。

昨年はパートナーズワークショップを2回実施しましたが、これは保健施設のスタッフとコミュニティーの代表者が同じ場所に集まって地域の共通の課題について学ぶというものです。これまでは別々に研修を行っていましたが、コミュニティーの代表と保健施設の医療スタッフが一堂に集まって5日間の連続した研修を行いました。2.5日間をコミュニティー代表とスタッフが共に基本的なケアを学び、残り2.5日間は医療スタッフのみが専門的なケアについて学びました。最終日に全員で自分たちに何ができるかというアクションプラン、活動計画を作成しました。その他にも講義としては、男性も含めて赤ちゃん人形を使って授乳姿勢などを勉強していただきました。さらに昨年は医療スッタフのみを対象にしたより専門的な内容のテクニカルワークショップも実施しました。

また私たちは各保険医療を訪問して状況を確認したうえで問題点を指摘するサポートモニタリングを行っています。検診に来た母親の人数や結果の記録が取れているか、また実際にそこに来ている母親がいれば直接問題点などをインタビューしています。この訪問には県保健局のスタッフも同行しており情報共有に努めています。コミュニティーの代表者たちは、それぞれの地域に帰って教会など人の集まる場所で母乳育児の普及活動をしています。HANDSで給料を払っているわけではありませんが非常に協力的に活動してくれています。他の人たちとの差別化の意味でお揃いの黒いTシャツを着てIDカードを下げて活動しています。
日本ではあまり知られていませんが、8月1日から7日までが世界母乳育児週間として120か国以上の国で母乳育児の推進を訴えるというイベントが行われています。私たちもこの2年間ケニアのケリチョー県でこの日に合わせてキャンペーンを行いました。1か月前から地域の住民たちが協力して準備し、横断幕を掲げて歌を歌いながら保健施設の周りを行進しました。この後住民が集まって母乳育児の大切さを主題にした寸劇などを行いました。小学生のグループや先生がサポートグループに加わっている場合もありました。これはキャンペーン以前からスタッフが小学校を訪問して普及活動をしていた結果です。

アウトリーチ活動としては、保健施設から離れた地域に住んでいる母親へのアプローチとして保健医療施設のスタッフが私たちのプロジェクト車両に同乗して予防接種や乳幼児健診を行いました。現在は月1回1か所で行っています。最近では生後6か月間母乳育児で育てた子供を見せに来てくれた母親もあり、そろそろ成果が見えてきたところです。

最後に行政への働きかけですが、ケニアでは医療施設はメディカルサービス省という省庁で、保険関係は公衆衛生省が管轄するという体制になっています。このように管轄省庁が分かれているため日ごろから情報の共有がやりにくいという面があります。そこで私たちが音頭を取って四半期ごとに県保健局の合同会議を開催し、HANDSの活動報告をするとともにそれぞれの機関の現状と問題点などを話し合います。このような機会に行政に対しても私たちの活動に対して理解を促進するようにしており、その結果スクールヘルス教育やアウトリーチ活動が注目されてきています。

母親たちから保健医療センターで指導された通り完全母乳哺育をしているという声が聞かれ、これまでは母乳以外のものが必要だと考えていた姑たちも母乳哺育を勧めるようになりました。父親も赤ちゃんが健康に育つということで協力的になってきています。今後はHANDSが撤退した後も保健施設で働いている人たちが継続して独自に活動することを目標に置いて支援していく予定です。この事業については2012年が一つの区切りになっており現在これまでの成果を調査しているところだす。